これは恋文です。
もしかしたらアナタに読んでもらえることもないかもしれない、けれど俺の正直な気持ちだから、だからこうして書いてみることにしました。
迷惑だったらごめんなさい。
でも、書いておきたかったんです。
もしかしたら、やっぱりアナタに読んでもらえることもなくて、俺の自己満足だけで終ってしまうかもしれないけれど、それでもいいかな、と思っています。
初めてお会いしてから、二回春が過ぎました。
アナタは多分、最初のうち、俺のことを嫌っていたのではないでしょうか?・・・当たっているでしょう?
あなたは優しいからそんなことありませんとか、おっしゃるかもしれませんが、大体俺のことを初対面で好きになるヤツなんていませんから。もしそんな酔狂なヤツがいたら、きっと滅茶苦茶マニアックなヤツだと思います。
俺の方は正直言って、読み通りの人だなあと思っていました。
里中の大人に忌み嫌われている問題児を可愛がっているアカデミー教師。優しい男なんじゃよと三代目はおっしゃって、俺はええそりゃそうでしょうよと思ったもんです。
・・・不愉快になったらごめんなさい。でも折角だから正直なところを話しておきたいと思ったもので。ごめんなさい。
とにかく、子供達絡みでお近づきになったアナタは俺が思っていた通りの「アカデミー教師のイルカ先生」だったんです。
俺はそのことになんとなく安堵し、なんとなく失望しましたが、どうせその内なんとなく切れてしまう縁だろうから、と深く気に留めてはいませんでした。
けれど、それから直ぐにアナタは任務斡旋所の受付も兼務されるようになりましたね。俺は下忍指導員になりましたので、ガキ共連れて難易度の低い任務を受ける為に日参して、アナタにお会いすることも多くなりました。
でも俺がアナタをアナタと認識したのは、顔見知りの里の中忍、以上のものになったのは、もっとずっと後でした。
ナルトが受付でごねて、お陰で引き受けることになった七班初の国外Cランク任務。
思いもかけないことになって、当初の予定とは随分内容が違ってしまったのですが、橋が出来上がるまで、という当初の取り決め通りの日数で済みましたので、里へは通常のCランクと変わらない報告で済みました。(もしかしたら、アナタは三代目から何かお聞きかもしれませんが。)
俺はその時、少々怪我をしました。依頼人には娘さんがいて(と言っても子持ちの未亡人でしたが。綺麗なひとで、料理も上手でした。)手厚い看護をしてくれたので、回復までそれ程かからず済みました。ただ掌にクナイで受けた傷が酷く化膿し、酷い痕になりました。とはいえ、神経も傷ついていないなら、多少みっとっもないことになっても手甲なり手袋なりはめりゃ分かりゃあしません。
だから深く考えてはいなかったんですけれど、里に戻ってから斡旋所に報告に行った時、丁度受付だったアナタは目敏く、
「お怪我なさったんですか?」
とお聞きになりましたね。俺は先に書いた通り、気にしていませんでしたから、
「ええ、ちょっとドジ踏んじゃって」
と軽く答えました。
でもアナタは眉を顰めると、何か言いたそうにしていて。多分横でガキ共が神妙な顔付きをしていたせいじゃないかと思いますが、病院に行かれますか、なんて聞いてらした。
正直言って俺は、ごめんなさい、うぜえなコイツ、そんな風に思いました。
俺は上忍の上に血継限界だったから、病院に行けば里の上層部に報告が行ってばっちり記録が残ります。それは不味いわけです、任務の内容が当初とは違っていたわけですから。依頼人は勿論、違反と知って引き受けた俺やガキ共にもペナルティは必至です。だから俺は病院で手当てを受ける気はさらさらありませんでした。それで、
「イイエ、たいした傷じゃありませんから。もう塞がってますし」
そう言ったんです。
するとアナタは、俺の返事を予期していたように溜息を吐いて、今夜お付き合いいただけませんか?なんておっしゃった。
正直かなり面喰らいました。俺とアナタはそれまで、あくまで単なるオシリアイの域を出ていなかったし。そんな風に誘われる謂れはなかったですし。
でもアナタは多分俺が目を丸くしたのを別な意味にとったのでしょうね、困ったような顔で中途半端に笑って、
「お手数で申し訳ないですが。直に済みますので」
そんなヘンな言い回しで再度おっしゃった。その時、俺はようやく、俺の態度がてめえ格下中忍のくせにこの上忍の俺様誘おうってのかクソ生意気な十年早ぇえんだよ的考えをしているように見えているんじゃ、ということに気づきました。その証拠に、俺の横にいるガキ共は呆れたような怒っているような、いやぁな感じの目で俺を睨んでいましたし、受付の中の他の中忍達は青い顔でこちらの様子をうかがっていました。
うわ、面倒臭い。
そう思った俺は仕方なく、了承しました。
正直たるいなあと思いつつ待ち合わせの場所にやって来た俺を、アナタが少し歩きますがと言って連れて行った先はなんとアナタの部屋で。
お楽になさってとかなんとか言ったアナタは狭い台所の床下収納から得体の知れない古臭い壺を取り出し、
「外して下さい」
「は?」
「手甲」
壺の中には緑色のどろどろとしたものが入っていてあなたはそれをぺちょぺちょと俺の怪我している手に塗りつけました。
「匂い、慣れるまでキツいかもしれませんが、我慢なさって下さいね。よく効くんですよ、これ。うちの秘伝ですから」
火傷なんかもキレイに治りますから、そう言ってアナタは笑った。傷については何もお聞きにならずに。一目でクナイの傷と知れるそれを目にしていながらも。
ただ、包帯の下から現れた化膿してきたならしい傷口を見た時、小さな声で、ああこりゃ酷い、痛そうだと呟いただけでした。
俺はその時、ああイルカ先生というのはこういう人なんだなあとぼんやりと思ったのです。くっさい得体の知れない冷たい軟膏をぺちょぺちょ塗られながら、こういう人なのだなあと。
そうして、ナルトが、あの訳アリの子供がそんなにもアナタに懐いている理由も分ったような気がしました。
それから三度、俺はアナタに惚れました。今日まで、三度。
それがどんな時だったかアナタはお知りになりたいかもしれませんが、内緒にしておきます。だって、俺がアナタにぞっこんなのはバレているから、せめてそれくらいは内緒にしておきたいと思うのです。
ただ、三度とも、惚れたっぱなしで俺はとても困りました。さめることなく貯まっていって、自分でも馬鹿だなあと思うくらいアナタのことが好きになっていくばかりでした。
その所為でアナタには随分とご迷惑をかけたような気がいたします。(アナタは意外だとおっしゃるかもしれませんが、俺にも自覚はあるのです。・・・とはいえ、自覚があるならいいってもんではなく、自覚があるなら尚更悪質と怒られそうですね。)
それでもアナタと一緒に見る空が好きだった。アナタと食うメシは美味かったし、アナタの側ではよく眠れた。アナタが触ってくれたところから、自分の身体も大事にするようになった。
アナタは頑固だったし、俺は堪え性がなかったから結構喧嘩はしたような気がします。
アナタは俺を無神経だと罵って、俺はアナタをお節介と嘲いました。
それは服の脱ぎ方だったり、煮付けに醤油をかけたりかけなかったりだったり、約束の時間のことだったり、後で考えてみればなんでそんなんでいちいちと呆れるような理由が大半でしたね。
でも殴り合いをしたのは一度きりでした。
俺を、里の身分制度ではかなり上に位置する俺のことを、好きだと、お付き合いできて嬉しいと言っていた俺のことを、強かに殴り付けてアナタは叫びました。なんて叫んだか、俺はハッキリ覚えていますが、今ここでもう一度それを書けばアナタはひどく恥ずかしがるでしょうから、勘弁して差し上げましょう。
けれど俺はあの言葉を墓の中まで(と言っても俺に墓なんてあるのかどうか甚だ怪しいもんですが)持って参ります。アナタが嫌がっても取り消しは受け付けませんから。精々後悔して身を捩ってらっしゃい。
ああでも。
バラしてしまいますが、俺がアナタに惚れた三度の内の一度はその時だったんです。
俺は朝になったら任務へ出発します。今日、アナタではない中忍が斡旋所の受付でひどく緊張した面持ちで渡してくれた任務です。久し振りの国外任務で単独任務です。少し長くかかりそうです。
装備はもう検めて臥所の脇に用意してあります。だからこれを書き上げたら直ぐに床に入って眠らなくては。予想外に時間が掛かってしまいましたが、でもまあ、少し睡眠不足くらいの方が楽な気もするんですが。
これは俺の愛読書に挟んでいこうと思っています。
もし俺に何かあったら、当然この部屋は片付けることになるでしょうし、そうしたら誰かがこれを見つけてアナタに渡してくれるでしょうか。もしかしたらアナタがご自身で見つけて下さるかもしれない。それともやっぱり気づかれずに捨てられちゃいますかね。
どっちでも良いんです。俺は、どっちでも。
案外へらへら戻って来て、こんなの書いてって、恥ずかしい思いするかもしれませんし。ま、そうしたら挟みっぱなしにしておきましょう。いつか役に立つかもしれませんしね。
だからアナタに手渡さずに、あの本に挟んでいきます。窓際の本棚の一冊。中巻がいいかな、アナタと知り合った頃丁度読んでいた辺り。
俺はアナタが好きです。
だから胸を張って任務に参ります。
アナタが信じて下さった俺の生き方をまっとうして、アナタが可愛がって下さった俺の手足を使って、里の役に立つ為に参ります。
俺は自分が上忍であることが嬉しい。
誰かの為に役に立てるというのは精神衛生にとてもいい。
だからどうか、俺の恋人であることを心の底で誇って下さい。俺も勿論そうしますから。
俺はアナタが好きです。
惚れています。
多分バレバレなんでしょうけれど。
大好きなんです。
だから意地でも笑って暮らして下さい。俺もそう出来るよう努力するつもりです。少しでも長く、アナタと笑って暮らせるようにと。
惚れたアナタとご一緒に。
俺はとても幸せです。
ありがとう、イルカ先生。
はたけカカシ
追伸:これは俺が生まれて初めて書いた恋文です。
書き方を知っているなんて、おかしいですかね?
ひっそり元ネタ → ラスト=あしながおじ●ん
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