「あの二人、また喧嘩したんだって?」
「あの二人ぃ?」
そろそろ夕暮れ。今日は穏やかな天気の一日だった。季節と季節の変り目に、たまにこんな風にゆるゆるとした天気の日がある。
アスマと紅は本日の任務報告を終え、斡旋所近くの小さな公園の造り付の共同椅子に腰掛けてのんびりと空の色の変わっていく様を眺めていた。
書庫で指定の書類の整理が本日拝命した任務だった為、爪紅が剥げることもなく上機嫌だった紅が缶入りの檸檬水を飲みながら思い出したというように聞いてくるのに、こちらは逃げ出した猫(血統書付のナンタラいうクソ高い奴)を追っかけて裏の山中走りまわされ、散々だったとぼやきながら紙コップの珈琲を啜っていたアスマは心底面倒臭そうに返事を返した。
「カカシとイルカ先生よ」
「・・・ああ、あいつらか」
はあと溜息を吐き、アスマはうっとおしげに顔を擦る。
「ああ。・・・っつうか、まあ、カカシの野郎がイルカせんせを怒らせちまったってのが正しいんだがな」
「なにソレ」
「いやさ」
どういうもんかね、と肩を揺するとアスマは組んでいた脚を下ろし、嫌そうに言った。衣嚢を探って煙草を取り出しながら。
「『師を超えろ月間』ってえのを先月ガキ共にやらせたらしいんだよ、カカシが」
「『師を超えろ月間』?」
なにソレ、と紅は形のよい眉を顰める。
「・・・・・・・・・・・・」
「アスマ?」
「・・・言葉通りさ」
ははと乾いた笑いと共に煙を吐いてアスマは更に嫌そうに言う。
「てめえの配下のガキ共に、持ってる忍者スキル使っての情報収集を実践形式でやらせたんだと。相手に気取られずに如何に多くの情報を持ち帰れるかってな」
「・・・まさかそのターゲットって」
「イルカせんせえだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「アカデミー時代世話になった恩師を相手に今の自分がどこまで通用するか試して来いってな。で、ガキ共は任務以外の時間センセイに張り付いたり、留守宅に忍び込んだり、アカデミーの机やロッカー探ったり・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「まあ、尾行に内偵、家宅侵入・捜索と、確かに忍者仕事の基礎っちゃ基礎だがな・・・ははは・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ただ・・・ガキ共の成果をカカシがどうしてんのかって考えると正直笑えねえよな」
「・・・・・・・・・・やめてよ・・・」
「ナルトが不審物押収と称してイルカ先生のぱんつ持って帰ってきた日、帰りに一楽で全乗せ大盛りミソラーメン奢ってもらったって話だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「それからうちはの小僧が途中経過報告とかでイルカ先生宅の風呂の残り湯瓶詰にして証拠写真に入浴中のセンセイの隠し撮りを付けて提出したら、上忍用の火遁が記してある巻物を貸してもらえたらしい」
「・・・・・・・・・・・・」
「サクラの嬢ちゃんなんざ、噛みグセのあるセンセイの鉛筆をアカデミーの筆立てから何本かくすねてきたら、ほれ、昔依頼人に貰ったってカカシの部屋に転がってたあの薔薇水晶のカタマリ、あれ貰ったってよ」
首飾りにするってはしゃいでたみたいだぜとアスマはまた乾いた声で笑った。
「けど下忍三人にぺったり張り付かれちゃ流石にセンセイも気付くわな・・・それでバレて、あの馬鹿縁切り言われたんだってよ。・・・もう一週間口も利いてくれねえって泣き喚いてやがった・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
夕暮れの空、カラスがかあと鳴いた。
完
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